イベントレポート:「20分では足りない」から始まる関係―Mentoring & Partnering Day Vol.01
2026年8月26日、エフラボ九大病院にて「f-labs Mentoring & Partnering Day Vol.01」を開催しました。
大学・スタートアップから生まれたライフサイエンス領域の研究シーズと、製薬企業、ベンチャーキャピタル、創薬支援の第一線で活躍するメンターが集まり、3分間のショートピッチと、1回20分の個別メンタリングを5ラウンド実施しました。
相談テーマは、研究開発戦略、会社設立、資金調達、共同研究、ライセンス、臨床開発、薬事、事業化などさまざま。
今回目指したのは、20分で答えを出すことではありません。
「もっと聞いてみたい」
「もっと相談してみたい」
そう思える相手との接点を、できるだけ多くつくることでした。
11名のメンターが福岡に集結
今回参加いただいたメンターは11名。創薬研究、臨床開発、薬事、事業開発、オープンイノベーション、投資、カンパニークリエーションなど、それぞれ異なる経験を持つ皆様です。

- Angel Bridge株式会社 伊原 輝氏
- Angel Bridge株式会社 清田 剛氏
- アステラス製薬株式会社 大江 宗理氏
- シコニア・バイオベンチャーズ株式会社 松井 久典氏
- 株式会社ファストトラックイニシアティブ 桐谷 啓太氏
- QBキャピタル合同会社 具島 三佳氏
- 大鵬イノベーションズ合同会社 森 文隆氏
- Meiji Seikaファルマ株式会社 廣瀨 紹代氏
- KMバイオロジクス株式会社 山上 亮氏
- KMバイオロジクス株式会社 鳥飼 正治氏
- 京都大学イノベーションキャピタル株式会社 八木 信宏氏
イベント冒頭では、まずメンター一人ひとりから、自身のバックグラウンドと「今日はどのような視点から相談に乗れるのか」を紹介いただきました。

例えば、大鵬イノベーションズの森氏は、参加するシーズやアイデアを「一緒の目線で社会に貢献できる形にしていきたい」とコメント。Meiji Seikaファルマの廣瀨氏は、製薬企業での研究、オープンイノベーション、事業開発の経験を生かしたいと話しました。
QBキャピタルの具島氏からは、前職のPMDAで医薬品審査を担当した経験も踏まえ、臨床開発を含めて「VCがどのように考えるのか」を伝えたいとの自己紹介がありました。
互いに「何者なのか」を知ったところで、研究者・スタートアップによるショートピッチへ進みます。
3分のピッチと20分の面談。短いからこそ、事前準備を厚くする

ショートピッチは1テーマ3分。
その後の個別メンタリングも、1回20分です。
当然ながら、この時間だけで研究内容や事業計画のすべてを理解することはできません。
そこで今回は、参加する研究者・スタートアップの皆様に、研究概要だけでなく、開発状況、事業化に向けた課題、そして「今回、メンターに何を相談したいのか」まで、事前にかなり詳しく記載いただきました。
率直に言えば、事前課題はかなり重めでした。
目的は、20分を自己紹介や研究概要の説明だけで終わらせないことです。
「次にどんなデータを取るべきか」
「この事業化戦略でよいのか」
「製薬企業はどこを見るのか」
「VCが投資検討に入るには何が足りないのか」
最初から、こうした具体的な論点に入るための事前インプットでした。
終了後には、QBキャピタルの具島氏からも、事前に資料が整理されていたことで、20分でも非常に実りある時間になったとのコメントをいただきました。
8つの会議室で、一斉に議論が始まる
ショートピッチが終わると、メンターはそれぞれの会議室へ。

メンターは部屋を固定し、メンティーが20分ごとに移動する方式で、5ラウンドの個別メンタリングが始まりました。
研究データを見ながら議論する部屋。
ホワイトボードを使って事業化までの道筋を整理する部屋。
「このデータだけでは製薬企業はまだ動かない」
「この疾患から入った方がいいのではないか」
「会社をつくるなら、このマイルストーンまで何円必要なのか」
と、ピッチでは触れきれなかった話が各所で始まります。
そして案の定、20分では足りません。
会場に鳴り響く「時間切れ」のベル
どの会議室でも、話が深くなるのはむしろ後半です。
しかし、その後には次のメンティーが待っています。入れ替えがあるため延長はできません。
そこで各ラウンドの終了1分前、そして終了時刻になると、事務局が8つの会議室の前を巡りながらベルを鳴らしました。
そのベルが、なかなかにけたたましい。
静かな会議室が並ぶ館内にベルの音が響き渡り、あまりの音量に参加者から思わず苦笑が漏れる場面もありました。
それでも会話はなかなか終わりません。
ようやく議論が深まり始めたところでベルが鳴り、名残惜しそうに話を切り上げて次の面談へ。
そんな光景が5ラウンド続きました。
けれども、それは必ずしも「時間が足りなかった」という失敗ではありません。
むしろ、
20分では終わらない話が、いくつ生まれたか。
それが、このイベントの一つの成果だったのかもしれません。
ベルが鳴ったあとも続きを話したくなる相手に出会えること。
今回、本当に作りたかったのは、その「続き」でした。

アカデミアが「創薬のすべて」を担う必要はない

実際のメンタリングや、その後の講評では、研究を社会実装へ進めるための具体的な示唆も数多く出ました。
シコニア・バイオベンチャーズの松井氏は、アカデミア発創薬について、研究者だけですべてを担おうとしないことの重要性を指摘しました。
一つの薬をつくるには、創薬研究、薬効、安全性、CMC、臨床開発、薬事、事業開発など、多くの専門家が関わります。
「1つのプロジェクトを進めるにも何十人という人が関わって、ようやく薬ができる」
それを一つの研究室ですべて担うのは現実的ではありません。
だからこそ、アカデミアやスタートアップに重要なのは、バイオロジーの強さと、それが実際に人でトランスレーションできるのかを示すこと。
そして、自分たちだけでは分からないことは、早い段階から外部の専門家と話す。
松井氏からは「壁打ちでも何でもお付き合いします」と、今後の継続的な相談を歓迎する言葉もありました。
技術だけでなく、「熱」と「仲間」を増やす
ファストトラックイニシアティブの桐谷氏が印象に残ったと語ったのは、参加者の「熱」でした。

シーズごとに技術やチームの強みは違います。
その強みを自信と熱量を持って伝えること。そして九州から世界へ持っていくためには、一人だけで進めるのではなく、周囲に「ファン」を増やし、必要な人を巻き込んでいくことが重要だと話しました。
今日会ったVCが投資家になるかもしれない。
製薬企業との共同研究につながるかもしれない。
あるいは、その人から別の専門家を紹介してもらえるかもしれない。
研究シーズを前へ動かす「チーム」は、必ずしも最初から同じ組織の中にいる人だけではありません。
九州のユニークさと、病院の中にあるエフラボ

大鵬イノベーションズの森氏からは、九州の研究シーズについても印象的なコメントがありました。
同社は2019年の設立当初、投資案件が九州に集中したことから、周囲から冗談交じりに「九州イノベーションズ」と呼ばれたこともあったそうです。
鹿児島出身でもある森氏は、この日さまざまなシーズと話す中で、関東や関西とは違う九州ならではのユニークさを感じたと振り返りました。
一方で、社会実装までの道筋については、地域に成功例がまだ十分に蓄積されていないことも課題です。
だからこそ、すでにそのプロセスを経験した人に聞く。
今回つながったメンターを、そのためにも活用してほしいとのメッセージがありました。
さらに森氏が「最大の強み」として挙げたのが、エフラボ九大病院が病院の中にあることです。
臨床現場に本当にニーズがあるのか。
医師が実際に使えるのか。
患者さんが必要としているものなのか。
研究開発の早い段階から臨床現場に聞くことができれば、事業計画だけでなく、VCや製薬企業から見たプロジェクトの説得力も変わります。
研究施設と病院が近いだけでは十分ではありません。
その物理的な近さを「対話の早さ」に変えられるか。
エフラボ九大病院がこれから生かしていきたい強みです。
ベルが止まったあとも、話は続く
5ラウンドのメンタリングが終了した後は、そのままイベントスペースで懇親会へ。

ケータリングと飲み物を囲みながら、先ほどまでの20分では話しきれなかった議論が、今度は時間割のない会話として続きました。
個別面談の続きをする。
別のメンターにも意見を聞いてみる。
メンター同士の会話から、「この案件なら、あの人とも話した方がいい」と新たな接点が生まれる。
今回、懇親会を設けたのも、このためです。
3分のピッチ、20分の面談、そしてその後の懇親会。
それぞれを別々のプログラムとして考えたわけではありません。
短時間だからこそ、事前情報を厚くする。
20分では足りないからこそ、その続きを自由に話せる時間をつくる。
一連の流れで、短時間の出会いを、その後の関係へつなげることを狙いました。

懇親会で聞こえてきた「今すぐGOすべき案件もあった」
懇親会の後半には、メンターの皆様から、この日一日を振り返って一言ずつコメントをいただきました。
そこで繰り返し聞かれたのが、参加した研究シーズのクオリティの高さでした。
Angel Bridgeの伊原氏は、
「本当にシーズのクオリティが高いと感じました」
と振り返り、こうしたイベントではまだかなり先の研究も多い中で、今回は「今すぐ検討できるようなものも多かった」と評価しました。
アステラス製薬の大江氏からも、「もう少し深く聞いてみたいものもあった」とのコメントがありました。
また、Meiji Seikaファルマの廣瀨氏が印象的だったと話したのは、データだけではありません。
参加者が、事業化に向けて何を考え、何を外部へ相談するべきなのかを理解した上で、この場に臨んでいたことでした。
そして、京都大学イノベーションキャピタル代表の八木氏からは、
「今すぐGOすべき案件もあった」
との言葉も。

イベント終了時の講評でも、今回の機会が京都大学と九州大学とのコラボレーションや、VCとしての関係を積み上げていくモチベーションになったと話しました。
メンティーだけでなく、メンターにとっても、新たな研究、人、地域との接点になった一日でした。。
20分で答えを出すのではなく、20分後も話したい相手を増やす
今回のMentoring & Partnering Dayで、すべての課題に答えが出たわけではありません。
そもそも、出ないことを前提に設計しています。
研究シーズを社会へ届けるために、研究者が一人ですべての答えを持つ必要はありません。
製薬企業、VC、臨床家、事業開発、薬事、経営人材。
異なる経験を持つ人に早い段階から研究を見せ、意見を聞き、必要な人をプロジェクトへ巻き込んでいく。
その積み重ねによって、研究シーズは少しずつ「研究」から「社会実装を目指すプロジェクト」へ変わっていきます。
大事なのは、20分で答えを出すことではない。
20分のあとも話したい相手を、どれだけ増やせるか。
エフラボ九大病院では、今後もMentoring & Partnering Dayを継続的に開催し、研究者・スタートアップと、製薬企業、VC、臨床家、事業会社などが、研究や事業の早い段階から直接話せる機会をつくっていきます。
研究室の中だけでは見えなかった「次の一手」が、誰かとの対話から見えてくる。
そして、ベルが鳴ったあとにも続く関係を、福岡・九州に一つずつ増やしていきます。
