イベントレポート:研究と投資が出会う場所で、未来はどう語られたか
2025年12月19日、九州大学医学部・百年講堂にて研究者、スタートアップ、キャピタリスト等ライフサイエンススタートアップエコシステムの関係者をお招きしたイベント「未来を創る“仕事⼈”たちに迫る〜⾒抜く、育てる、世界へ押し出す:VC、コンサル、アクセラレーターの真髄とは〜」が開催されました。

クリスマスを目前に控えた当日、会場にはジャズが流れ、開場と同時に多くの来場者が集いました。ほどなくして会場は満席となり、クリスマスマーケットのような温かい雰囲気の中でイベントがスタートしました。
当日は、ベンチャーキャピタル、投資家、研究者、スタートアップ創業者など、多様な立場の参加者が一堂に会し、ライフサイエンス分野における研究成果をいかに社会実装へとつなげていくかを共通のテーマとして、活発な議論が交わされました。
本イベントの特徴は、単なる研究紹介やピッチイベントにとどまらず、
「投資家は何を見て評価しているのか」
「どのポイントで評価が分かれるのか」
という視点に正面から向き合った点にあります。
また、投資家やアクセラレーターの考え方や価値観、いわば「人となり」に触れる機会が設けられたことも、本イベントならではの特徴でした。
エコシステムの入口としてのエフラボ九大病院

イベント冒頭では、2026年1月より本格始動予定のエフラボ九大病院について紹介が行われました。
エフラボ九大病院は、研究者・スタートアップ・投資家が物理的に集い、日常的に交流するための拠点です。今後はイベント会場としてだけでなく、サイエンスとビジネスが自然に交差し、新たな連携が生まれる「場」として機能していくことが期待されています。
福岡地所は、単に建物を建て、整備するのではなく、人が集い、交わり、関係性が育っていく空間そのものを創出することを目指しています。
当日は約10名の福岡地所スタッフが参加し、間近に迫った施設の詳細について来場者から多くの質問が寄せられました。来場者に一人ひとりに丁寧に説明を行う姿からは、エフラボ九大病院にかける強い想いが感じられ、1月の開業への期待が一層高まる時間となりました。

「未来をつくる人たち」は、何を見ているのか

続いて行われたパネルディスカッションのテーマは、
「未来を創る“仕事人”たちに迫る
〜見抜く、育てる、世界へ押し出す:VC・コンサル・アクセラレーターの真髄とは?〜」
製薬、スタートアップ、アクセラレーター、規制、臨床といった異なるバックグラウンドを持つ登壇者が、それぞれの立場から語った内容は、単なる投資論にとどまらず、研究者にとっても示唆に富むものとなりました。
大学の研究テーマと企業ニーズのギャップに気づいた経験や、どれほど優れた技術であっても、経営や組織が弱ければ事業として成立しないという現実など、登壇者の実体験に基づく言葉が共有され、会場に強い説得力をもって響いていました。
議論の中では、
「この研究は面白いか」
「このチームは、仮説検証と失敗を何度も乗り越えられるか」
「次の資金調達、その次の成長フェーズに耐えられる組織か」
といった問いが、繰り返し投げかけられました。

投資やアクセラレーターによる評価は、単一の基準で機械的に決まるものではなく、それぞれの立場や考え方、想いを伴った判断であることを同じ空間・同じ時間で共有できたことに、本イベントの大きな価値があったといえます。
正解はひとつではない、という安心感

Q&Aセッションでは、テンポよく質問が続きましたが、そこには共通したメッセージがありました。
・すべての投資案件が成功する必要はなく、VCとしてはポートフォリオ全体で勝つことが重要
・優れたサイエンスであっても、リーダーシップや組織のあり方次第で、結果は大きく変わる
・VCには多様な価値観があり、「No」という判断は必ずしも事業そのものの否定ではない
投資家の意思決定の背景が共有されたことで、研究者や起業家にとっては、「評価されない=自分が間違っている」という単純な構図でないことを理解する機会となりました。
多数のVCが集いリバースピッチ

後半で行われたVCリバースピッチは、この日の大きなハイライトの一つでした。
通常は起業家がピッチを行いますが、本セッションでは立場を逆転し、投資家自身が登壇。
自らのファンドの考え方、得意分野、支援スタイルについて語りました。
「誰に、何を、どのように相談すべきか」という点について、参加者の解像度が一気に高まり、参加していた起業家や学生にとって、今後の行動を具体化するための大きなヒントとなる時間となりました。
ウイスキーとエレベーターピッチ

イベントの締めくくりには、ウイスキーテイスティングを取り入れたワークショップが行われました。
「なぜウイスキーなのか」という問いに対し、
ウイスキーは深い思考や本音、哲学を引き出すツールとして適しているという意図が、ファシリテーターの瀬尾氏より語られました。あわせて、ご自身の師匠である教授から贈られたウイスキーに関する書籍の紹介もありました。

参加者は4種類のウイスキーを手に取り、
香りや味、水を加えた際の変化を段階的に体験しました。プロセスの変化を味わい、その背景に思いを巡らせる中で、研究や起業のプロセスにも通じるものがあると感じる時間となりました。
その後、本題となるエレベーターピッチでは、
「誰のためのものか」
「どのような体験を提供するのか」
「なぜそれが価値なのか」
といった問いを1分で語ることに取り組みました。

技術の説明ではないからこそ場の空気は和らぎつつも、求められる構造はスタートアップのピッチと同様です。
短く、わかりやすく、相手の記憶に残る言葉で伝える。
その難しさと面白さを、参加者は体感的に学びました。
クリスマス前ということもあり、発表者には「Nice Fight賞」が贈られ、会場は温かな雰囲気に包まれました。

社会に届けるために、いま大切なこと
イベント全体を通して一貫していたメッセージは、
「相手を知り、理解する。その上で、わかりやすく心に響くメッセージを届けること。」
投資家、アクセラレーター、研究者が互いの立場を理解し、補い合いながら前に進むための「対話の場」として、本イベントは非常に意義深い機会となりました。
また、本イベントが「一度きりの催し」ではなく、日本のライフサイエンス・イノベーションを中長期で育て、次につなげていくエコシステム形成の一部として明確に位置づけられていた点も印象的でした。
単発で終わるのではなく、関与する人と知が連鎖的に広がり、
「ここに来れば、必ず次の価値や出会いに巡り会える」
という手応えが感じられるイベントとなりました。
エコシステム作りは各地でいろいろな試みがされていますが、
福岡で行われる本イベントは非常にユニークで、何かが着実に前へと動き始めているーその兆しを実感できる、今後の展開が大いに期待されるイベントだったと思います。
単に人が集まる場ではなく、会話が生まれ、深まり、質が高まっていく。
そのプロセス自体が、今後の展開への期待を強く感じさせるものとなりました。
