バイオ業界のパイオニアが結集、スタートアップ支援の新潮流を探る── Fukuoka Bio Night / Plug In : Fukuoka #2
2025年9月25日(木)、福岡市天神に新設されたイノベーションキャンパス「CIC FUKUOKA」にて、福岡のバイオ産業の発展と研究者のキャリア形成を促進するイベント「Fukuoka Bio Night #2」が開催されました。
19時から行われた「Fukuoka Bio Night②: 産学官のスタートアップ支援②」では、VCから事業会社、業界団体まで多様なステークホルダーが一堂に会し、それぞれの立場からバイオスタートアップ支援の取り組みについてプレゼンテーションを実施しました。
会場では終始、国内外の登壇者・参加者が交流や名刺交換を行い、産官学のスタートアップ支援をさらに加速させるためのディスカッションが時間いっぱいまで繰り広げられていました。

本記事では、5名の登壇者によるプレゼンの一部を紹介します。
投資から環境整備まで、5つの視点から見る支援の最前線
バイオ領域でのイノベーション創出には、産学官の連携が不可欠です。しかし、資金調達、事業化、研究環境の整備など、スタートアップが直面する課題は多岐にわたります。
今回のプレゼンでは、支援する側と支援を受ける側、双方の視点から、バイオスタートアップ支援の現状と取り組みが共有さました。
会場限定の内容が多いため、次回開催時にはぜひ現地にお越しください。
【登壇者】
- Red Capital株式会社 代表取締役 片田江舞子氏
- 株式会社セルシード 代表取締役社長 橋本せつ子氏
- 株式会社オカムラ 阿部由紀子氏
- 一般社団法人Stellar Science Foundation Sean McKelvey氏
- 大日本印刷株式会社/FIRM(再生医療イノベーションフォーラム) 菖蒲弘人氏
研究者出身VCによる、サイエンス×ビジネスの投資哲学

Red Capital株式会社 代表取締役 片田江舞子氏
トップバッターとして登壇したRed Capitalの片田江氏は、東北大学大学院出身の元研究者という異色の経歴を持つベンチャーキャピタリストです。会場の熱気あふれる雰囲気のなか、「ちょうどお腹が空いてくる時間だと思いますので……」と笑顔で切り出し、和やかな空気でピッチが始まりました。
18年間バイオ投資を手がけてきた片田江氏は、今年6月に、独立系VCとして新ファンドを設立したばかりです。「基礎研究で培った技術シーズを社会に実装する投資がしたい。その強い思いでキャピタリストになりました」と語ります。
日本のスタートアップ投資の現状について、「業界全体は成長していますが、2023年に組成されたファンドのうちディープテックファンドはわずか4%です。SaaS領域への投資額の半分程度しか投資されておらず、この格差は大きな課題です」と指摘しました。新ファンドでは、シード段階から連続的に投資を行い、バイオスタートアップの成長を止めない支援を目指すとしています。
片田江氏が強調したのは、VCの役割についてです。「サイエンスとビジネスを区別して事業を推進することが重要。VCはその両方を理解し、サイエンティストと経営者の橋渡し役にならなければなりません」と述べました。
締めくくりとして、成功するディープテックスタートアップの条件を語った片田江氏。「私が投資で重視しているのは、テクノロジー・チーム・タイミングの3要素です。これらが揃った時にこそ、スタートアップは大きく成長できると確信しています。こうした成功要因を見極めながら、優れた企業に質の高い投資を行っていきたい」と展望を語るその姿は、科学と資本の両言語を行き来できる稀有な存在として印象に残りました。自社や自分の挑戦をこの3つの視点から見直してみると、新たな可能性が見えてくるはずです。
再生医療のパイオニアが語る、ディープテック事業化の醍醐味

株式会社セルシード 代表取締役社長 橋本せつ子氏
九州大学理学部出身でアメリカ・ドイツでの研究経験を持つ橋本氏は、40年にわたるバイオ業界での経験をもとに、ディープテック分野での事業化の醍醐味や難しさを語りました。
セルシードは東京女子医科大学の技術をベースとした大学発ベンチャーで、「温度応答性ポリマーを用いた細胞シート工学」という独自技術を持ちます。これは、細胞をシート状にし傷つけずに回収できる技術です。
2010年にJASDAQ NEO(現グロース市場)に上場し、現在は膝軟骨の再生医療で、フェーズ3治験を開始する段階まで到達。患者自身ではなく他人の軟骨細胞をセルバンク化し、セルバンクからつくったシートを移植することで、より多くの患者に提供できる仕組みです。
ディープテック事業について、橋本氏は農業に例えて説明します。「隣に畑が広がっていても、そうでないフィールドを自分で耕して畑をつくり、種をまく。収穫した作物は独り占めできる。これがディープテックの醍醐味です」。一方で、「再生医療は法律や規制との戦いで、毎日が障害物競走のようです」と事業化の壁についても語りました。
最後に、「不確実性が高く、市場規模が小さく、リスクも大きいディープテック事業に大手企業が参入するのは困難。だからこそ、リスクを取ることができるスタートアップにチャレンジしていただきたい」と、会場の起業家候補に向けてエールを送りました。
オフィス家具メーカーが提案する、研究者が活きる環境づくり

株式会社オカムラ 阿部由紀子氏
創業80周年を迎えるオフィス家具メーカー・オカムラから登壇した阿部氏は、「研究者の働く環境改善」という視点でバイオスタートアップ支援について語りました。
オカムラが実施した9業種・1,500名以上の研究者への調査では、研究者が1日のうちに実験室にいる時間はわずか約25%でした。残りの75%は待ち時間や事務作業に費やされており、実験室以外の環境整備の重要性が浮き彫りになりました。
オカムラでは、調査結果をもとに「ABW(Activity-Based Working)」という働き方を研究施設に提案しました。「研究者が仕事内容に合わせて最適な環境を選択できることで、研究のパフォーマンスだけでなく、モチベーションも高めることができます」と阿部氏は説明します。「研究者が集中できる場所、アイデアを共有できる場所、リフレッシュできる場所。環境を柔軟に選べることが大切です」
実例として株式会社サイフューズでの導入効果を紹介し、「カウンタースペースでの軽食やコミュニケーションから新たな発想が生まれ、チーム以外のメンバーとのコミュニケーションも活発化しました。『職場環境が日頃のモチベーション向上に影響する』と考える研究者の割合も89%に達しています」と改善の効果を示しました。
最後に、「これからも研究者の皆さまが力を発揮し、生き生きと働ける環境をつくってまいります」と支援への意欲を語りました。
好奇心を武器に、人中心の科学研究エコシステムを構築

一般社団法人Stellar Science Foundation Sean McKelvey氏
設立3年目を迎えるStellar Science Foundation(以下、SS-F)のMcKelvey氏は、「科学の力で、世界を前に進める。」というミッションのもと、従来とは異なるアプローチで研究者支援を行っています。
「研究者が好奇心を持つ分野で、やりたい研究ができるようにしていきたい」。SS-Fはこうした課題意識を持ち、研究者の発見と発明を加速させ、かつ持続させる科学研究のエコシステムをつくろうとしています。McKelvey氏によると、その核となるのが「ピープル・セントリック(人中心)」の科学研究です。
McKelvey氏は、この考え方を実現する3つの重要な要素として、「第一に、研究者個人の創造力をエンパワーして、ぶっ飛んだアイデアが生まれるようにすること。第二に、異分野やアカデミア外の人とのつながりをつくること。第三に、“研究者はかっこいい”“研究は面白い”というマインドセットを醸成すること」を挙げました。
SS-Fは実際の取り組みとして分散型研究プラットフォーム「ステラインベンター」を運営し、研究者とVCや起業家をつなぐ役割も果たしています。
来年3月には三井不動産のサポートを得て、横浜にウェットラボを備えた新拠点を開設予定です。McKelvey氏は、「分散型研究でテーマベースの研究を可能にし、インベンションからイノベーションにつながるプログラムを実施していきます」と今後の展望を述べました。
業界団体の力でベンチャー支援、機会創出から海外展開まで

大日本印刷株式会社/FIRM(再生医療イノベーションフォーラム) 菖蒲弘人氏
最後に登壇した菖蒲氏は、FIRMでの活動を通じたベンチャー支援について語りました。FIRMは2011年設立の一般社団法人で、「製薬協の再生医療版」(菖蒲氏)として191社が加盟する業界団体です。
「FIRMの特徴は、再生医療や創薬を目指す企業だけでなく、CDMOやサポーティングインダストリーの企業も多数参加していることです」と菖蒲氏。菖蒲氏は、FIRMの起業・事業化促進委員長として、スタートアップ支援にも注力しています。
近年FIRMは、中医協での提言や、創薬力を強化するための官民協議会ワーキンググループへの参加など、業界団体として規制当局や官公庁との対話も行っています。菖蒲氏は、「ここ数年は特に国の機関とのやり取りが増えており、再生医療業界への注目度やFIRMの役割の重要性を実感しています」と語りました。
業界団体としてのスタートアップ支援方法は、「直接的な出資よりも機会創出に力を入れている」とのことです。具体例として、ベンチャー企業向けのイベント開催や、アメリカの再生医療業界団体ARMでの国内ベンチャー紹介などを挙げました。
最後に、今後のイベントとして、2025年10月の「ベンチャー創設支援フォーラム」(東京)、2026年1月の「ベンチャーブースター 2026 in 九州」(福岡)の開催を予告した菖蒲氏。「オンサイト限定の濃い内容をお届けします」と参加を呼びかけました。
次のイベントで、またこの熱気を体感しましょう
産官学それぞれの立場から、リアルで熱量の高いメッセージが交わされた今回のセッション。
5名による熱いプレゼンは予定時間ぎりぎりまで続き、司会者の「登壇者の方々へ拍手を!」という声がけには会場から盛大な拍手が送られました。記念撮影の後も、聴衆が登壇者に話しかけにいく姿や、登壇者同士の和やかな交流が見られました。
これからも福岡地所は、バイオやディープテックを軸に、研究者・起業家・投資家・企業が交わり、次の挑戦を後押しするイベントを開催してまいります。投資家の方々、事業会社の新規事業・投資部門の方々、ディープテック、特にバイオ系スタートアップやその支援者の方々など、バイオの未来に関心を持つすべての方のご参加をお待ちしております。
福岡から新しいバイオビジネスが生まれる場に、ぜひお越しください。
