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イベントレポート:日韓バイオスタートアップが示す、次世代医療・創薬の未来── Fukuoka Bio Night / Plug In : Fukuoka #2

2025年9月25日(木)、福岡市天神に新設されたイノベーションキャンパス「CIC FUKUOKA」にて、福岡のバイオ産業の発展と研究者のキャリア形成を促進するイベント「Fukuoka Bio Night / Plug In : Fukuoka #2」が開催されました。

本イベントは釜山のスタートアップ支援機関「釜山創造経済革新センター(Busan Center for Creative Economy & Innovation(BCCEI)」との連携によるオールイングリッシュ・ピッチイベントとして開催。医療AIから細胞治療、創薬、デジタルヘルスまで、さまざまな分野のスタートアップ8社が登壇しました。

日本にいながらもグローバルな熱気に包まれた会場では、英語でのピッチが次々と展開。

各社の発表に込められた情熱は言葉の壁を越えて伝わり、観客のまなざしも次第に真剣に。ピッチの合間には笑顔や拍手が飛び交い、アジアのスタートアップ同士がリアルに交流する、活気あふれる場となりました。

この記事では、本イベントに参加したスタートアップ8社によるピッチ内容をダイジェストで紹介します。

【登壇企業】

 ・THYROSCOPE INC.(甲状腺疾患向けSaMD「Glandy」)

 ・Chiral(AI創薬ワークフロー、がん・炎症性疾患標的探索)
 ・P&D Donga Medical, Inc.(眼科手術機器・AI健診、白内障/緑内障の早期発見)

 ・Cellknit Inc.(再生医療用バイオ素材、細胞シート・スキャフォールド応用)

 ・Yellosis, Inc.(尿中バイオマーカー、糖尿病/CKD/高血圧セルフ管理)

 ・elegslab Inc.(線虫モデル×AI、パーキンソン病/アルツハイマー病創薬)

 ・精密編集(Base Editing技術、DNA二本鎖切断不要のゲノム編集)

 ・ハインツテック(ナノチューブ膜技術、再生医療・免疫細胞療法)

【審査員】

・新見 祐加 氏(DCI Partners)

・Patryk Chojecki 氏(Celltech Accelerator)

・Sungkyung Jung 氏(PrestigeBioPharma IDC)

・SOONKOO LEE 氏(SQUARE VENTURES)

・Kyumin Lee 氏(SM-Sino Tech Investment)

・Jae Han Bae 氏(Lotte Ventures)

・Sang Hyun Park 氏(Widwin Investment)

【モデレーター】

・加々美 綾乃 氏(CIC Japan)

甲状腺疾患向けSaMD「Glandy」を開発、THYROSCOPE 



韓国発のスタートアップTHYROSCOPEは甲状腺疾患に特化した医療用ソフトウェア(SaMD)Glandyを開発しています。甲状腺疾患は世界人口の約6%が罹患し、生涯にわたる治療が必要とされる病気です。患者は定期的な血液検査以外に状態を把握する手段がなく、また合併症である甲状腺眼症(TED)は、内分泌科医による評価不足や眼科専門医へのアクセス制限により早期診断が難しいという課題を抱えています。

その課題への解決策として開発されたGlandyは、スマートウォッチから取得した心拍数データをAIで解析し、甲状腺機能の変動を日々モニタリングできるのが特徴です。これにより患者自身が日常的にリスクを把握でき、医師はホルモン変化の兆候を早期に察知することが可能に。また、AI画像解析技術を活用し、TEDの早期診断や診断のばらつきの是正にも貢献します。

すでに140名以上の医師がデモに参加するなど、強固な医療ネットワークを持っているTHYROSCOPE。世界6カ国で121件の特許を取得し、10カ国の研究機関とグローバルな共同研究を進めるなど、国際的な展開も加速させています。

今後は欧州、日本、米国での医療機器認可と商業展開を目指し、保険会社や医療機関との連携を進める方針です。代表のJaemin Park氏は「すべての甲状腺疾患患者に最適なケア体験を届けることをミッションに、Glandyの展開を進めていく」と語りました。

会場からは「どのように海外展開を進めていくのか」「競合との差別化ポイントは?」といった質問も寄せられ、関心の高さがうかがえました。

オールインワンAI創薬プラットフォームの提供へ、Chiral

ChiralのCEOであるQin Wan氏は、「Empowering Drug Discovery with AI」をミッションに掲げ、AI技術を活用した創薬プラットフォームの開発を行っています。

創薬は一般に15年以上の歳月と巨額のR&D費用を要し、その成否は早期探索段階で決まることが多いとされています。また、現在の創薬現場ではツールやデータが分断され、効率的な情報統合が困難なことがボトルネックとなっているのも現実です。

Chiralはこれらの課題を解決するため、AIとノーコード技術を融合したオールインワン創薬支援プラットフォームを開発。「アプリケーション・データ・解析を一元化し、研究プロセスを最大40%効率化できます」と語るQin氏。

審査員からは「どの程度の時間・コスト削減が可能か」「誰が顧客となるのか」といった質問も。Qin氏は「現状で約14%の時間短縮が見込める」とし、製薬業界を中心に展開しつつ「将来的には他分野にも応用可能」と語りました。

長期かつ高コストなプロセスが課題となってきた創薬。ノーコードのインターフェースを通じてアプリケーションを統合し、AIエージェントが迅速でトレーサブルな研究判断を支援することで、創薬プロセス全体の加速が今後期待されます。

iScan AIとOLOですべての人に目の健康を届ける、P&D Donga Medical



P&D Donga Medicalは、「すべての人に目の健康を届ける」を掲げ、AIとモバイル技術を活用した次世代の眼科ヘルスケアソリューションを展開しています。高齢化や医療費の増大、専門医不足など、日本をはじめとする先進国が直面する課題に対し、同社が提案するのはスマートフォン完結型のAI診断「iScan AI」と、パーソナルヘルスアプリ「OLO」です。

iScan AIは、撮影した眼画像をクラウド上で解析し、白内障や緑内障などの早期兆候を3秒で検出する眼疾患の早期発見ソリューションとして開発。OLOはパーソナライズされた目の健康アプリとして個人の日常的な健康管理を支援します。

iScan AIとOLOで予防医療から日常管理までを包括する新たなアイケアエコシステムの構築を進めるP&D Donga Medical。今後については「2025年10月15日にOLOの正式ローンチを予定しており、その後、病院や保険会社、ウェアラブル機器との連携も想定した通信企業との提携を進めていきます。」と語った。

審査員からはビジネスモデルや想定ユーザーに関する質問が寄せられ、Qin氏は「医療アクセスが限られる地域や国に普及を目指したい」と強調。また、スマートフォンの普及やリモートワークの増加により、目を酷使する若年層もユーザーになる可能性が大きいと説明しました。

Threadrixで薬ではなく細胞が治療する時代に、Cellknit



Cellknitは、機械工学に基づく新しい細胞伝達ソリューションを開発している韓国のスタートアップ企業です。創薬が「薬」から「細胞」へと変化している今、細胞治療薬市場は2032年に2,000億ドル規模へ成長すると予測されています。一方で、現状では商用化の成功率がわずか5%という現実があります。

「大多数の細胞治療薬が商用化に失敗する大きな原因は、臨床と実験環境の差による低い生着率にある」と語るJungho Lee氏。従来のゲルタイプ細胞治療薬は体内で細胞が浮遊し死滅してしまう課題がありました。

そこでCellknitが開発したのがThreadrixです。ゲルではなくスレッド構造を採用することで流れずに均等に細胞が生着し、生存率を飛躍的に向上させます。低侵襲での移植が可能で開発コストと期間も大幅に短縮できるほか、複数種類の細胞治療薬を同時に適用できる点も特徴的です。

今後については「会社としてはまだ創立1年未満でありながら、すでに顧客ニーズと商用化可能性の確認は完了しています。これから自動化装置による低コスト生産とオーダーメイド型細胞治療薬の製品パイプラインの拡張を進めていく予定です」と述べた。

ピッチ後は「非常に興味深いですね」という声が複数の審査員から上がり、会場の参加者からも質問が寄せられるなど、その革新的なアプローチに大きな注目が集まっていました。

尿データでスマートに健康を管理、Yellosis



YellosisのCEOであるYukyung Tak氏は、病院に行かなくても日常生活の中で健康状態を把握できるデータドリブンなパーソナルヘルスケアの実現を目指して、Yellosisを始めました。

尿検査によって診断できる疾患は600以上とされていますが、病院での採取や記録の煩雑さなどが課題とされてきました。Yellosisはこの非効率を解消するため、スマートトイレとスマート尿検査キットによるバイオマーカー測定・予測システムを開発。独自の高感度識別アルゴリズムにより、平均98.9%という高精度を実現しています。

さらに、尿データに加え、ウェアラブルや家庭用IoT機器から得たヘルスデータを統合し、AIが食事や運動のパーソナライズされた提案も可能に。将来的にはスマートベッドなどを組み合わせたスマートスペース構想を進め、家庭内でのリアルタイム生体シグナル監視を通じた生活習慣・リスク管理の実現を目指しています。Tak氏は「医療機関や研究開発機関、保険会社などとの提携を進めたいので協力してくれる方やグローバル投資家の方々とつながりたい」と述べました。

質疑応答の時間になると、「グローバル展開の戦略は?」をはじめ、複数の質問が飛び交いました。Tak氏は「パートナーとして協働してくれる方を積極的に探しています」と応じ、前向きな姿勢で聴衆の関心をさらに引きつけました。

線虫モデルとAIを組み合わせた次世代創薬システム、elegslab



elegslabは、線虫モデルとAIを組み合わせた新しい創薬手法を開発する韓国のバイオテック企業です。「現在、世界には約7,000種類の希少疾患が存在していますが、承認済みの治療薬があるのはわずか5%です」と語るのはCEOで創業者のShin Sik Choi氏。また、創薬には平均15年・10億ドル以上の時間と費用がかかり、開発成功率も極めて低いことが課題とされてきました。

このような課題に対してelegslabは「in vivo AI」を提案。in vivo AIで創薬の開発コストを50%削減し、開発期間を10年未満に短縮するだけではなく、成功率を最大100倍に高めることが可能であると主張しました。

同社では装置・カートリッジ(線虫ベースのバイオチップ)・AIを組み合わせた収益モデルを採用し、サブスクリプションを通じて安定的なデータ提供と収益確保を目指しています。

今後は、AIバイオチップによるCRO事業を軸に、化粧品・健康補助食品領域での応用、さらにナノ製剤CDMOプロセスや神経変性疾患・代謝疾患領域での創薬支援へと事業を拡大していく計画です。

審査員からは、「具体的なターゲットは?」といった質問が上がりました。Choi氏は、薬の承認には長い時間と複雑なプロセスが伴うため、「化粧品や健康補助食品など、より早い展開が可能な分野も並行して進めていく予定です」と説明。また、「日本でのネットワークはまだないので、今日は多くの方と交流したい」と語り、積極的な姿勢を見せました。

日本初のゲノム編集イノベーション、精密編集



精密編集(Precision Editing)は、DNAの二本鎖を切断せずに塩基レベルでの編集を可能にするOne-SHOT技術を核に、疾患モデル細胞の開発を行う日本のバイオテクノロジー企業です。2023年に横内裕二氏によって設立され、次世代型ゲノム編集技術を用いた高精度な細胞モデルの製造に挑んでいます。

日本の製薬業界では医薬品貿易赤字や国内R&Dの制約といった構造的課題を抱える中、創薬の基盤となる疾患モデル細胞の安定供給が求められています。そこで、自社独自のOne-SHOT技術により、高精度・短期間・低コストで単一塩基のゲノム編集を実現し、創薬研究の効率化を目指すのが株式会社精密編集です。

現在、創薬向けと農作物向け事業を展開しており、計2兆円規模の市場をターゲットとしています。特に創薬向けとしては疾患iPS細胞の市場は2035年に5.5兆円規模への成長が見込まれることから、同社は長期的な視点で事業拡大を進め、持続的な成長基盤の確立を見据えています。横内氏は今後について、「まずは製薬企業との安定的なBtoB取引を確立し、その後アジア、そしてグローバル展開へと段階的に拡大させていきます」と述べた。

また、質疑応答でも再度横内氏は創薬分野における明確な需要を強調。さらに「iPS細胞研究所(CiRA)などの研究機関との競合関係はあるのか」という質問に対しては、「競合には当たりません」と回答しました。

ナノチューブ膜スタンプ技術で細胞加工に革新、ハインツテック



ハインツテック(Hynts Tech)は、代表の青木睦子氏のもと、細胞加工技術を軸に医療・環境・食糧などの社会課題の解決にアプローチしています。

細胞への分子導入は多分野で不可欠な工程ですが、従来技術では時間がかかり、効率が低く、大きな分子を導入できないという技術的制約がありました。ハインツテックはこの課題に対し、独自開発のナノチューブ膜スタンプ技術で解決を図る提案を行っています。

このナノチューブ膜スタンプ技術により、分子導入に要する時間を1週間から30分に短縮可能。また、導入効率を25%から90%以上へと向上させることができます。さらに従来は困難だった500nm〜1μm級の大型分子も導入可能に。これにより、細胞治療薬や培養細胞の開発効率を飛躍的に高めることができるようになります。「まずは医療・環境・食品分野の研究機関や企業のR&D部門と連携し、技術の実証と事業化を目指していきます」と青木氏は語った。

ピッチ後の質疑応答では、「1つの細胞にどれだけのナノファイバーを導入できるのか」「その過程をどのようにトラッキングしているのか」といった技術面での質問が相次ぎ、専門家からも高い関心が寄せられました。

また、「IPOを視野に入れているのか」という質問には、「M&Aの選択肢もあるかと思いますが、現時点ではIPOにフォーカスしています」と青木氏。技術と事業の両面で関心を集めたピッチとなりました。

次のイベントで、またこの熱気を体感しましょう

産官学それぞれの立場から、リアルで熱量の高いメッセージが交わされた今回のセッション。

8社による熱いピッチは予定時間ぎりぎりまで続き、司会者の「登壇者の方々へ拍手を!」という声がけには会場から盛大な拍手が送られました。記念撮影の後も、聴衆が登壇者に話しかけにいく姿や、登壇者同士の和やかな交流が見られました。

これからも福岡地所は、バイオやディープテックを軸に、研究者・起業家・投資家・企業が交わり、次の挑戦を後押しするイベントを開催してまいります。投資家の方々、事業会社の新規事業・投資部門の方々、ディープテック、特にバイオ系スタートアップやその支援者の方々など、バイオの未来に関心を持つすべての方のご参加をお待ちしております。

福岡から新しいバイオビジネスが生まれる場に、ぜひお越しください。

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