イベントレポート:Capital & Business Development
― 異なる視点が交わるとき、イノベーションは動き始める。
2026年7月3日に開催した本イベントでは、ライフサイエンス領域の研究者、製薬企業、ベンチャーキャピタル(VC)、スタートアップ、行政、金融機関、支援機関など、多様な立場のプレイヤーが一堂に会し、「Business Development(BD)」をテーマに、それぞれの視点から事業化や社会実装について議論を深めました。
創薬・ライフサイエンス領域では、優れた研究成果や技術シーズがあっても、それだけで社会実装につながるわけではありません。研究成果を患者へ届けるためには、研究者だけでなく、製薬企業、VC、行政、支援機関など、それぞれが異なる役割を担いながら連携し、新たな価値を共に創り上げていくことが求められます。
今回のイベントでは、「Business Developmentとは何か」という問いを出発点に、共同研究やライセンス、資金調達といった個別の手法にとどまらず、「誰と組み、どのような価値を創出し、どのように社会実装へつなげていくのか」という、ライフサイエンスにおける事業開発の本質について、多角的な議論が展開されました。
知識や情報を共有するだけではなく、異なる立場だからこそ見えている景色を互いに知り、新たな視点を得ること。その積み重ねが、ライフサイエンスエコシステムの発展につながることを、多くの参加者が実感する機会となりました。

VC・製薬企業、それぞれの評価軸を知る
○×ディスカッションから見えてきたBusiness Developmentの本質
イベント前半では、VCおよび製薬企業の登壇者による○×ディスカッションを実施しました。
投資や事業開発の現場で実際に向き合うテーマをもとに、
「このタイミングで投資するか」
「このチームに出資するか」
「ライセンスを目指すべきか」
といった問いに対して、登壇者それぞれが○または×で意思表示を行い、その判断理由について率直な議論が交わされました。
印象的だったのは、同じ問いに対しても、VCごとに判断が大きく分かれる場面が数多く見られたことです。
ある登壇者は市場性を重視し、別の登壇者は創業者の資質を重視する。また、知財戦略や出口戦略を優先するなど、それぞれが異なる視点から意思決定を行っており、VCと一括りにしても、その投資哲学や評価軸は決して一様ではないことが共有されました。
こうした議論は、研究者やスタートアップにとっても大きな示唆となりました。
研究成果や事業が評価されなかったのではなく、投資のタイミングやファンドの方針、あるいは目指す未来との違いによって判断が異なる場合もあることを理解することで、事業開発や資金調達をより多面的に捉える視点が共有されました。
議論はさらに、製薬企業のBusiness Developmentへと広がります。
VCが企業価値や将来的な成長性を重視する一方で、製薬企業では、自社パイプラインとの親和性や患者への提供価値、さらには将来的な協業可能性など、異なる観点から事業性が評価されます。
同じ技術や研究成果であっても、立場が変われば評価軸は変わります。
だからこそ、伝えるべき内容や伝え方も変わる。
Business Developmentとは、単に事業を進めるための機能ではなく、相手の視点を理解しながら価値を設計し、適切な形で伝えていくプロセスであることが、登壇者同士の率直な対話を通して共有されました。
今回の○×ディスカッションは、「正解」を学ぶ場ではありませんでした。
それぞれの立場によって意思決定の基準が異なることを知り、多様な視点を理解すること。そのこと自体が、ライフサイエンス領域におけるBusiness Developmentを考える上で重要な学びとなりました。





「誰を集めるか」ではなく、
「どのようなチームをつくるか」
Mix the Right Teamが問いかけた組織づくりの視点
イベント後半では、参加型ワークショップ「Mix the Right Team」を実施しました。
今回のワークショップでは、スポーツチームを題材に、「世界で勝つチームをつくるためには、どのような人材が必要なのか」をテーマとしてグループディスカッションを行いました。
導入では、同じテキーラでも組み合わせる素材によって「マルガリータ」「パロマ」「テキーラサンライズ」など全く異なるカクテルが生まれることを紹介しました。重要なのは、一つひとつの素材の優劣ではなく、どのような組み合わせによって新たな価値が生まれるかという視点です。この考え方をチームづくりになぞらえながら、参加者は「世界で勝つチームには、どのような役割や人材が必要なのか」を議論しました。
「Mix the Right Team」というタイトルの通り、重要なのは優秀な人材を集めることではなく、それぞれの強みをどう組み合わせ、新たな価値を生み出すかという視点です。
創薬ベンチャーにおいても、優れた研究成果を社会実装へとつなげるためには、研究者だけでなく、経営、事業開発、資金調達など、多様な役割を担う人材が必要となります。しかし、重要なのは単に優秀な人材を集めることではなく、それぞれの強みや役割が補完し合い、一つのチームとして機能することです。
ワークショップでは、参加者それぞれが異なる視点からチームに必要な役割を考え、議論を重ねました。
「リーダーシップを発揮する人」「最後までやり遂げる人」「異なる立場をつなぐ人」など、各グループで描く理想のチーム像はさまざまであり、それぞれの経験や価値観が色濃く反映された発表となりました。
議論を通じて共有されたのは、「能力の高い人材を集めること」と「成果を生み出すチームをつくること」は必ずしも同じではないという視点です。
創薬やライフサイエンス分野では、一人の専門性だけで事業を前に進めることはできません。それぞれの役割を理解し、互いの強みを活かしながらチームとして価値を創出することの重要性を、参加者自身が体感する機会となりました。
また、Business Developmentが「誰と組むか」を考えるプロセスであるとすれば、このワークショップは、その前提となる「どのようなチームをつくるか」を考える機会でもありました。
研究、事業開発、資金調達、経営──それぞれ異なる専門性を持つ人材が、共通の目的に向かって役割を果たすこと。その重要性を実践的に学ぶ時間となりました。
Business Developmentとは、技術だけではなく、人・組織・資本・ネットワークをつなぎ、新たな価値を生み出していく営みでもあります。本ワークショップは、その出発点となる「組み合わせる力」を、カクテルという身近なメタファーを通して体感する機会となりました。








イベント終了後も続いた対話
新たなつながりが生まれる場として
Life Science Insightの特徴は、講演やワークショップだけで完結しないことです。
今回もイベント終了後には、会場の各所で活発な対話が続きました。
研究者がVCへ研究内容について相談する姿や、製薬企業の担当者とスタートアップが具体的な協業の可能性について意見を交わす様子、行政関係者が研究者の課題や地域に求められる支援について耳を傾ける場面など、立場を超えたコミュニケーションが自然と生まれていました。
名刺交換にとどまらず、その場で次回の打ち合わせ日程を調整するなど、新たな連携へ向けた具体的な動きも数多く見られました。
こうした光景は、登壇者が一方的に情報を発信し、参加者が聴講するだけのイベントでは生まれにくいものです。
登壇者と参加者が肩書きや所属を超えて一人のプレイヤーとして向き合い、それぞれの立場から率直に意見を交わすことで、新たな接点や可能性が生まれていく。そのような対話の積み重ねこそが、本イベントの大きな価値であると改めて感じられました。



福岡・九州から広がる
ライフサイエンスエコシステムの可能性
「異なる立場」が交わるから、新しい挑戦が始まる
今回のイベントを通じて改めて感じられたのは、異なる立場のプレイヤーが互いの視点を理解しながら対話を重ねることの重要性です。
研究者、製薬企業、VC、行政、支援機関。
それぞれが異なる役割や使命を持ちながらも、「研究成果を社会へ届ける」という共通の目的のもとで議論を重ねることで、新たな連携や挑戦の可能性が広がっていきます。
Business Developmentには唯一の正解があるわけではありません。
立場が変われば評価軸も変わり、求められる価値や意思決定の基準も異なります。だからこそ、相手の視点を理解し、多様な価値観を受け入れながら対話を重ねることが、新たな事業やイノベーションの創出につながります。
福岡・九州には、優れた研究者、スタートアップ、製薬企業、投資家、支援機関が集積しています。
そうしたプレイヤーが、それぞれの専門性や経験を持ち寄り、立場を超えて議論できる環境は、この地域が持つ大きな強みの一つです。
イベント終了後も会場では活発な対話が続き、新たな出会いや協業に向けた具体的な動きが生まれていました。
こうした一つひとつの対話の積み重ねが、新たな価値創出や地域発イノベーションを育む土壌となり、福岡・九州のライフサイエンスエコシステムの発展につながっていくものと期待されます。


おわりに
Life Science Insight「Capital & Business Development」は、Business Developmentというテーマを通じて、研究成果を社会実装へとつなげるために必要な視点や、多様なプレイヤーとの対話の重要性について考える機会となりました。
VCと製薬企業、それぞれ異なる評価軸を知ること。チームづくりの本質を体感すること。そして、立場を超えた対話から新たなつながりが生まれること。
その一つひとつが、ライフサイエンス領域におけるイノベーション創出には欠かせない要素であることを、多くの参加者が実感する一日となりました。
今後もLife Science Insightでは、研究者、企業、投資家、行政、支援機関など、多様なプレイヤーが交わり、新たな挑戦や共創が生まれる場を継続的に創出してまいります。
福岡・九州から世界へ。ライフサイエンスエコシステムのさらなる発展に向け、その一歩となる対話と挑戦を、これからも積み重ねてまいります。
